クラウドとは
「クラウド」とは、英語では「cloud」と書き、本来は雲・大群・集団などを意味します。全体像が明確でなくはっきりしない、もやもやした状態を表しており、現在の「クラウド・サービス」を比喩するのに似合っていたため、この言葉が採用されたようです。
では、なぜ「クラウド・サービス」を表現するのに、「雲」のイメージが持ち込まれたのでしょうか。
そもそも「クラウド・サービス」あるいは、単に「クラウド」と呼ばれる現在のサービスは、従来はサーバ・ネットワーク機器やOS・ソフトウェアなどを自己所有して構築・運用してきた方式に対して、他者(多くの場合は、サービスを提供している企業)が提供するインターネット上のさまざまなリソースやサービスを、インターネットを介して、必要な時に、必要なだけ利用できるサービス形態を指します。
また、現在では、契約形態としては、オンデマンド方式の従量課金であることが多いようです。
従来型で考えると、サーバ・ネットワーク機器やOS・ソフトウェアなどを自己所有して構築・運用し、場合によっては、その環境上にさらに独自のシステムを開発して搭載することもありました。しかし、これら一連の構成はあくまで自己所有することが前提でしたから、どこに何があって、どのような仕様であるかは、所有者のコントロール下にありました。
しかし、これを永続的に繰り返すには、多大な労力とコストを要することは想像に難くありません。ましてやアクセス数が巨大で、停止できない基幹サービスであるほど(ミッションクリティカルであるほど)そのプレッシャーは比例して増します。
高度に情報化された社会では、とくにネット上でビジネスを展開し、サービスを提供する組織は、それでもそのプレッシャーをはねのける必要性に迫られます。
そこで、すべてを自己所有で完結する従来の方式から徐々に脱却し、必ずしも自己所有・自己運用の必要性の低い業務からアウトソーシングしていくという潮流が生まれてきました。当然ながら、自己負担を軽減するためです。
たとえば、2000年代の前半にはすでに「ASPサービス(Application Service Provider Service)というサービス形態が登場しており、他者(この場合はASP事業者)が提供するサービスをインターネット上で利用することが始まっていました。具体的には、スケジュール管理、プロジェクト管理、営業支援、顧客管理など多様なサービスが見受けられました。これらすべてを自己所有・自己運用するよりも、徐々に外部サービスに移行していこうという発想です。
これらが進化発展して、また、社会の側もそれを認識し、受け入れるようになり、現在のクラウド・サービスにつながっています。いまでは、仮想サーバ、アプリケーション、負荷分散、データストレージ、DNSなど、多様なサービスが提供されています。
冒頭の、なぜ雲のイメージが持ち込まれたのか、という問いについてですが、一説には、ネットワーク図を描く際に、インターネットのことを雲の絵で表現していたことから、このような外部サービス・リソースを利用する形態も同様に雲で表現したからだといわれています。この「クラウド」という言葉を最初に用いたのは、2006年8月で、アメリカGoogle社の当時のCEO エリック・シュミット の発言だといわれています。
クラウド・サービスの具体例
先ほどの説明にもあったように、いまではさまざまな種類のクラウド・サービスが提供されています。まさに百花繚乱の様相です。
アメリカのAmazon社・Google社が提供しているクラウド・サービスの代表例が、「Amazon Web Service」「Google Cloud Platform」です。
従来のサーバ構築においては、サーバ機器の購入からネットワーク構築、OSや必要なソフトウェアのインストールなどが必要でした。さらには、その環境上に、その組織が必要とするシステムを構築していました。これらを基本的にはすべて外部サービスに依存することを念頭に提供されているのが、上記に挙げたサービスです。
これらのサービスは、従来物理的な機器であったサーバを、仮想サーバに置き換えてサービスを提供しています。もちろん最終的には、彼らのデータセンタに物理サーバがありますが、それらを仮想化し、1つの論理サーバとして価格を設定し、提供しています。
同様に、データベースソフトも、時間当たりいくら、データ量当たりいくら、などといった課金体系で提供しています。そして同じく、アプリケーションサーバも、データストレージサーバも、DNSサービスも、負荷分散サービスなども提供されています。いまやそのサービスの種類はきわめて多岐にわたっています。
そして、それらは、仮想化されたサービスですから、古くなれば廃棄し、新しい仮想サービスを用意する、あるいは、東京からアメリカ東海岸へ移動させるといったようなことが容易に実現できます。これを物理環境で実施しようとすると、多大な労力とコストが必要となり、一筋縄ではいきません。
ようは、彼らのサービス内で、多様なソリューションが可能・完結できるよう設計・提供されているといえます。
自己の目に見えるものを所有し、運用していくことから、自己の目には直接的には見えないけれども、他者が提供する多種多様なサービスを取捨選択し、組み合わせて利用していくトレンドに変化したといえます。もちろん国家機密レベルの重要データを取り扱うことから、クラウド利用が厳禁であるポリシーもあり、それはそれで重要なことです。しかし、社会のダイナミックな潮流はこのような変化であるととらえても過言ではないでしょう。
AWS,Amazon Web Service は、 Amazon.com, Inc. の登録商標です。
クラウド・サービスの分類(IaaS, PaaS, SaaSの比較)
これまでの説明で、いまのクラウド・サービスがいかに広範にわたるかということを実感できたかと思います。一方で、その多様性・複雑性・進化速度から、自社での採用において、なかなか具体的なイメージに直結しないという問題もあるかもしれません。
そもそも、「いま自社で何が必要か」というニーズ・出発点によって、あるいは立場によって、必要となるクラウド・サービス自体にさまざまな差異が出てきます。
そこで、現在世の中で一般的に提供されているクラウド・サービスの分類を見てみます。
ひとことで「クラウド」といっても、現状では、大きく2つに分類することが可能です。
「パブリック・クラウド」と「プライベート・クラウド」
パブリック・クラウド
これまでに説明してきたようなサービスを、インターネットを介して広く一般社会に提供する形態を「パブリック・クラウド」と呼びます。利用者は、仮想サーバ・データベース・負荷分散などのサービスを、個別あるいはトータルにサービスとして受けることができます。そして、多くの場合が、利用量に応じた対価を支払う契約形態となっています(従量課金制)。
多数あるクラウド・サービスのうち、必要な種類のサービスを、必要なときに必要なだけ利用できる点が特長です。
多くの場合、このサービスを提供するクラウド事業者(クラウド・プロバイダーなどとも呼ばれる)のデータセンタ基盤の上に、利用者個別に仮想化された状態で提供されます。したがって、エンドポイント(このサービスの最終的なロケーション)では、他の利用者との共有となっているケースが多いでしょう。
プライベート・クラウド
上記の「パブリック・クラウド」とは、エンドポイントにおいてもっとも違いがあります。パブリック・クラウドでは、比較的低コストでサービスを提供できるよう、エンドポイントの環境では、他の利用者との共有環境であることがほとんどです。
それに対して、「プライベート・クラウド」では、その利用者(この場合、企業や官公庁・大学など)占有の環境を用意します。そして、その環境上に、利用者が必要とするクラウド・サービスや、専用のシステムを構築し、運用します。
より高いセキュリティ要求や、サービスを決して停止させてはならないミッションクリティカルな要求がある場合、パブリック・クラウドで提供されることが想定されます。
つまり、アバウトにいうと、「パブリック・クラウド」が共有(相乗り)である前提で、比較的安価にサービス提供を受けることができるのに対して、シビアな運用条件が求められる高セキュリティ・高可用性なニーズのもとでは、「プライベート・クラウド」の出番となります。
そしてこれらは、「どちらが優れているか?」という比較ではなく、自社・自組織において、「何が必要か?」という出発点から考え、検討することが重要です。当然ながら、組織ごとに求められるニーズはまったく異なるからです。
その上で、必要なサービスを、必要なだけ取り揃え、必要な分量だけ利用できることがクラウド・サービスの魅力です。
最新の動向では、オンプレミス環境(自前の環境、自己所有の環境。従来から所有している環境という文脈を意味するときもある)の一部の機能を、クラウド・サービスに移行し、住み分けを図ったり、複数のクラウド事業者のサービスを組み合わせてリスク分散を図ったりと、クロス・クラウド、マルチ・クラウドの発想も生まれています。
「IaaS」「PaaS」「SaaS」
「パブリック・クラウド」と「プライベート・クラウド」をさらに掘り下げて、もう一段下のレイヤー(層)で分類してみます。
「パブリック・クラウド」と「プライベート・クラウド」では提供の形態に大きな違いがありました。つまりはどちらかというと、利用形態や契約サイドの文脈にあります。
それらの環境上で、具体的にどのような種類の、あるいはどのような範囲までのサービスを受けるのかという機能的・仕様的サイドの差異が、「IaaS」「PaaS」「SaaS」という分類です。
「IaaS」
このページであげた例の多くが、この「IaaS」です。
IaaSは、多くの場合、仮想サーバ上に予めOSを組み込んだ状態、あるいは利用者が予め用意されたラインナップからOSを選択してインストールできる状態で提供されています。
多くのパブリック・クラウドのサービスでは、仮想サーバ1台のことを、「インスタンス」「コンピューティング」「VM」などと呼びます。事業者ごとに呼称が変わることがありますが、基本的には同一のものを指しています。
このインスタンス1つが、従来の物理的なサーバ1台(具体的にいえば、○○メーカーの、1Uラックサーバ1台)に相当すると考えてほぼ差し支えありません。
つまり、大雑把にいうと、「IaaS」は、OSまでセットされたサーバ1台を指すということがいえます。
ちなみに、当社のようなクラウド支援や構築の専門企業では、このレベルで契約し、開発環境や実証実験環境を構築することがあります。
「PaaS」
通常、企業や官公庁・大学など組織でサーバを運用する場合、先にあげた「IaaS」レベルでニーズが十分に満たされることはありません。
多くの場合、サーバ上に、Webサイトや業務システム、場合によっては基幹システムなどが配備され運用されているからです。最近では、スマホアプリの運用や、ゲームアプリの運用も考えられます。
このとき、サーバ環境には、データを管理するための「データベース」や、Webサイトを公開するための「Webサーバ」、アプリケーションを駆動するための「アプリケーションサーバ」などが必要となります。
「データベース」、「Webサーバ」、「アプリケーションサーバ」を「ミドルウェア」と呼ぶことがあります。広義には「ソフトウェア」と表現して何の問題もないのですが、とくに個人の手許の端末(PCやスマホ)にインストールするアプリケーション類と区別するために、サーバにインストールして利用するという文脈で「ミドルウェア」と呼ばれます。
「PaaS」は、まさにこの「ミドルウェア」レベルまでを範囲としたパブリック・クラウドのサービスを指します。
「SaaS」
先にあげた「PaaS」でもまだ完全なサービスを消費者や利用者に提供することができません。あくまでミドルウェアが搭載されたレベルだからです。
最終的には、パブリック・クラウドの仮想サーバ上に、Webサイトや業務システム、場合によっては基幹システム、スマホアプリやゲームアプリなどがデプロイ(配備)され、広く一般の消費者に向けてリリース(公開)される、あるいは、特定のユーザ群に対してリリースされなければ意味をなしません。
また、このレベルになると、多くの場合は、その企業や官公庁・大学など組織専用のシステムやコンテンツ、データなどが配備されているケースがほとんどです。
その組織のために開発されたシステムが稼動しているようなケースです。一般的には、システム開発事業者は、このレベルでの構築・運用支援・サポートを行っています。
また、当社シーライヴ株式会社もこのレベルまでのサービスをお客さまに提供しています。クラウド・サービスの導入・構築・運用支援・サポートについて、お気軽にご相談ください。
*AWS,Amazon Web Service は、 Amazon.com, Inc. の登録商標です。
*GCP,Google Cloud Platform は、 Google Inc. の登録商標です。
*Cloudn は、 NTTコミュニケーションズ株式会社 の登録商標です。