アクセスログ分析の必要性

[ 編集者:シーライヴ株式会社    2016年01月19日    更新 ]

 ひとの健康管理では、「健康診断」がしばしば利用されます。同様に、ウェブサイトの健康診断として、アクセスログ分析が用いられます。ウェブサイトのアクセスログ分析には、主に下記のようなねらいがあります。具体的なケーススタディでご紹介します。

1,コストパフォーマンス(費用対効果)

 ウェブサイトの運用には、一定のコストが生じます。一般に規模の大きなウェブサイトほどコスト高になる傾向があり、企業や組織にとっては、見逃せない金額です。

 したがって、現在のウェブサイトの状態が、コストパフォーマンス、すなわち費用対効果が一定度認められるのか、認められないのか、そうした視点で分析する必要が生じます。

 分析と改善の結果によっては、大きなコストパフォーマンス効果を期待できるからです。

[ケーススタディ 1] 目に見えない損益を認識する

 ある企業では、長らくウェブサイトの管理を社内のサーバルームで行っていました。いわゆるオンプレミス環境での運用でした。一見、自社内での管理運用ですので、ランニングコストが最小限に抑えられているように思われます。

 しかし、アクセスログ分析を実施してみると、当社の基準値よりも表示エラーの発生率が高く、ページの表示時間が長かったりと、ウェブサイトが適切に運用できていない面があることが判明しました。

 環境基盤のコストは確かに節減されていますが、肝心のウェブサイトが一定以上のパフォーマンスを発揮していないと、その企業のブランド力や商品販売力にも影響を与えてしまいます。

 KGI:重要目標達成指標、KPI:重要業績評価指標を実施したとしても、かんばしい成果をあげることが難しいのはこの時点で明らかとなりました。

 このように、ウェブサイトがメディアとして、十分なパフォーマンスを発揮しているか、目に見える絶対金額だけではなく、抽象的な対象物の効果を測定する意味からも必要性をあげることができます。

2,仮説検証

 そもそもウェブサイトをリリース(一般公開)、あるいは運用する過程において、「こうすればアクセス数が伸びるだろう」という仮説をもって企画・計画されるケースは多いと思われます。

 さて、その仮説でもって、一定期間運用した結果、実態がその仮説通りだったのか、あるいは上回ったのか、下回ったのか、検証することによって、はじめてその仮説の確からしさが証明されます。いうまでもなく“PDCAサイクル”の基本です。

 ウェブサイトの運用においても、一定期間ごとの仮説検証が重視され、その検証の一助として、アクセスログ分析が用いられます。

[ケーススタディ 2] まずは1つでも検証する

 “PDCAサイクル”の重要性は多くの現場で重視されています。頭では理解できていても、さまざまな業務に追われて、実際に実行に移せている現場が少ないのが実情でしょう。

 そこで、当社では、大規模なアクセスログ分析・診断を実施する予算や実情を持ち合わせていない企業・組織に対して、ワンテーマに絞った小規模なアクセスログ分析の実施を毎年お勧めしています。

 たとえば、「グローバル化」がテーマであった企業では、毎年「グローバル化」に絞ったアクセスログ分析のみを2年間にわたって実施しました。

 接続元が日本以外・日本語OS以外、あるいは特定の英語キーワードによるランディングページ、またそれらのユーザグループのサイト滞在時間や離脱率などのデータを集中的に分析しました。

 それを2年間にわたって実施すると、たとえワンテーマに絞った分析とはいえ、仮説の検証には十分な材料が出そろいます。そしてそれがそのウェブサイトのグローバル化のための次期戦略に結びつきます。

 このように、仮説検証のみならず、次期戦略のための処方箋を見出すためにも、アクセスログ分析は有用といえます。

3,PDCAサイクルとカイゼン(改善)

 上記2,とも関連しますが、仮説検証の繰り返しは、結局のところ品質管理で有名な「PDCAサイクル」の施行と、それに続くカイゼン(改善)に他なりません。

 経済がグローバル化し、先行きの見通しが難しい時代、成熟経済の時代においては、一朝一夕に瞬間的な結果を出すことよりも、中長期間においてゆるやかな成長を維持し(サスティナブル)、リスクヘッジ(リスク分散・回避)思考がより重視されます。

 このとき、恒常的な運用方法を確立するためにも、PDCAサイクルの視点にもとづいたウェブサイトのアクセスログ分析が活用されます。

 そして、日々の改善を積み重ねることにより、わずかなコストパフォーマンスの改善が大きな利益を生み出す源泉となります。時代の大きなうねりや変化にも振れ幅が少ないこうした手法は、日本の伝統芸でもあり、改めて世界からも見直されています。

[ケーススタディ 3] 弱点を強みにする

 ある企業では、例年のアクセスログ分析で、「ニュースやお知らせは、全体のアクセス数に占める割合が少ない」ということが定説になっていました。日常的に更新するコンテンツの割には、労多くして、益が少ないという認識でした。もちろんニュースが主体のウェブサイトではありませんでした。

 確かにトップページのニュース部分はクリックレートが低く、関係者の注目を集めませんでした。

 ところがあるときの分析で、改めてスポットを当ててみると、このニュースコンテンツのパフォーマンスが以外にも高いことが判明しました。平均滞在時間や離脱率、あるいはオーガニック検索による流入(検索サイトからの自主的な流入)が、他のページ群よりもスコアが良好であることがわかったのです。しかし、前述のように、絶対数が少ないためにこれまでは重視されてきませんでした。

 そこで、中期計画にニュースコンテンツのレイアウト構造や長期のアーカイブ化、あるいはスマホへの積極的な配信など多様な戦術を採用してみました。すると、従来比、5倍のアクセス数をはじき出すようになり、またウェブサイト全体のユーザロイヤリティも少なからず押し上げる結果となりました。

4,規模を計り、イメージする

 そもそもウェブサイトはリアルの店舗とは異なり、ユーザ(訪問者)の出入りが物理的に見えるわけではありませんので、管理者自身イメージが把握しにくいものです。

 コンビニエンスストアであれば、深夜でも多数の来店客であふれている店舗であれば「繁盛している」ことが一目瞭然です。しかし、ウェブサイトはそのように観察することが困難です。

 そこでアクセスログ分析の数値から、たとえば小売店舗になぞらえれば、どの程度の規模感なのか、イメージすることが可能となります。

 さらにECサイトであれば、売上高を見ることができますが、これと入店人数(サイトへの流入ユーザ数)と対比することにより、果たして入店規模と売上高のバランスがとれているのかどうか、検証することが可能です。

 見えにくいウェブサイトの規模感を見える化(可視化)することは、具体的なイメージを抱くことが容易となり、ビジネス戦略の意思決定を加速します。

[ケーススタディ 4] どのような“お店”なのか?

 これは、ウェブサイトのコンサルティング、とくにアクセスログの分析・診断において当社がよく採用する手法ですが、企業・官公庁・大学などからアクセスログ分析・診断の依頼を受けた場合、そもそも自社のウェブサイトが1日にどの程度ののべ利用者が出入りしているのか、その規模を明らかにするところから着手します。

 「1日にのべで約○○人の利用者が出入りしています」と表現すると、一気にイメージの幅が拡がるからです。たとえば、「JRの○○駅の1日の乗降客数と匹敵します」「○○コンビニの大阪圏の1日あたり平均来店客数と匹敵します」というと具体的なイメージがわくからです。

 そして、ここからが、アクセスログ分析・診断の本来の目的です。その「約○○人」の利用者が、そのウェブサイトの中でどのような行動をしているのか、いくつかのパターンにセグメントして追跡調査します。この場合、ユーザロイヤリティの高いケースもあれば、低いケースもあります。ようは、ウェブサイトにとって、良好なスコアのセグメントと、不本意なスコアのセグメントの両方を調査する必要があります。

 これにより、そのウェブサイトの“強み”と“弱み”が明らかとなるからです。そのバランスの上に、次期戦略のための処方箋、すなわち今後の計画において“強みとしてますます挑戦していく計画”と“弱みを補強する計画”が導かれます。

 優秀なウェブサイトとは、訪問者が訪れてから、出ていくまでのシナリオが整然と存在することを意味します。

5,セグメント化し、イメージする

 上記4,と同様ですが、ユーザ(訪問者)の実像が物理的に見えるわけではないので、ユーザ(訪問者)のパーソナリティ・属性が把握しにくいことがあげられます。

 インターネット以前のマーケティングの時代から、自社ビジネスの中核をなす顧客層を分析する、すなわち、「40歳代で、家庭を持ち、小学生高学年~中学生くらいのお子さんをお持ちの主婦層」という顧客層のイメージを把握することは重要でした。

 こうした顧客層のデモグラフィックデータはインターネットの黎明期は取得が困難といわれてきました。しかし、いまや高度なWebサービスが日常生活で利用されるようになり、メールサービスやSNSなど大規模なWebサービスのおかげで、この種のビッグ・データを比較的容易に分析材料として活用できるようになりました。

[ケーススタディ 5] ファンの属性を知る

 結局のところ、自社の最大のファン層を十分に知り尽くすことが、ウェブサイトの世界でも必要となります。言いかえれば、どのような属性の利用者・消費者からウェブサイトが支えられているのか、具体的に表現することが重要となります。

 現在のWebサービスでは、こうしたデモグラッフィックデータ(属性情報)を活用しやすくなったこともあり、「週末によくアクセスしてくれる、30~40代の男性、趣味はスポーツ観戦」というような具体的な表現につながる分析が必要です。

 また、こうした属性情報の一定の集団=セグメントを複数知っておくことがキャンペーンや広告展開の基礎となります。各セグメントとキャンペーンや広告展開の効果測定を継続的に実施することにより、より確度の高い施策が期待できるからです。

 近年のAI(人工知能)の進展は、こうした施策をいずれ自動化することにつながるでしょう。そのためにも、ウェブサイトの管理者は、冒頭でも述べたように、アクセスログ分析から、自サイトのファン層の具体像をことばで表現できるまでに知っておく必要があります。